「裏表紙」ダブルブッキング川元文太監督作品 感想

ダブルブッキング川元文太さん初監督映画「裏表紙」を見てきました。

面白かったです。

 

なんと言うか、ダブルブッキングのコントの設定に出てきそうな(初期の頃の、「友達の家の物を入れ換える」「友達を誘拐する」的な発想のネタ)、だけども映像でしか表現できない、絶妙な哀愁、物悲しさ、嫌な感じ、気持ち悪さ、などがあって良かったです。

 

なんか、川元さんの笑いって、

「ダメを愛する」とかっていう感じじゃなくて

「ダメであり続ける」って感じと言いますか…

 

もはや

「愛とはダメなものである」ぐらいまで行ってる雰囲気すらあって、

 

最終的な着地点含めて

世の中の、よいとされてる物とか人とか、正義とか倫理とかを、それこそ甲斐性がなく有耶無耶になし崩しにしてゆくダメ男のように、ズルズルと引き剥がしてしまう行為に、

 

ある種の真理とカタルシスが、ガス漏れの如く充満しててゆっくり窒息してゆくような気持ち良さがありました。

 

 

ここら辺からネタバレになってしまうのですが…

 

 

登場人物全員に、共感と侮蔑を同時に注げる歪なディテールが舌触りとしてあって、

 

特に、いとうせいこんさんと、磁石佐々木さんのジトッとした嫌な感じが色気があって好きでした。立場のある人の歪みかた。目付きにダメさが宿ってる、管理職ゾンビっぽさ。結局、あの2人も働いてるフリでしかないし、それって悪役というポジションですら実態が無いという事を、二重構造で描いちゃってる。

 

マツモトクラブさんの目立たないように生きてゆく事の肯定と、そこへのプライドが感じられるスタンスは、一見格好良いし物語の中ではそこを中心に描かれているけど、端々でさりげなく挟み込まれる「生徒に手を出してる」「半額のシールを張り替える」などの根本的な安っぽいクズさが丁寧に紡がれてるところも逆に素敵。

 

まんざらでもねぇ涼平さんの薄っぺらさも味わい深かったです。素直で愚直な愛されキャラとするには、全部を舐めくさってるし、しかも自分のその主観にあんまり気付いてないという、一周回って結果爽やかな喉越し。こういうのってバカキャラみたいに処理されがちだと思うのですが、なんかそこら辺が、上り詰めてゆく奴の性格としてリアリティがあって、凄い天然でもなけりゃ、凄い計算高いわけでもない、小田嶋さんとのくっ付き方とかにそのしょうもなさが存分に表れていてニヤニヤしちゃいました。

 

そういった登場人物たちの、リアリティのあるうっすらとしたダメさ、が心地よく、それが映画の世界観を包み込んで、見終わったあとに自分の心身にそれが染み込んでいったのを感じました。

 

 

ストーリーとしての教訓的なものも、別に無いんじゃないかと思うけど、無いようであるような、ちょっと昔話のような勧善懲悪っぽさもあるにはあって、

 

単純なヒロイズムとして捉えるなら、

「サボるが勝ち」なんだけど

だとしたら、佐々木さんが撃退される意味もあまり無いし、でもだからこそ小市民視点での爽快感もあったし、ただマツモトクラブさんのクズである事に変わりはないし、そこら辺が川元さんのあの乾いた視点を一番感じるところでした。

 

絶対的に「いい話」ではないのだけど、

なぜか「いい話」だったかのように感じてしまう。

 

面白かったです。

また見たいです。

 

 

電波少年で箱の中に閉じ込められていた川元さんが、「空っぽの箱」を運んでいる映画を撮っている事が、

 

なんか良かったです。