上島竜兵と話術
ダチョウ倶楽部の上島竜兵さんの訃報を受けて、いち視聴者でしかありませんが前々から感じていた事を言語化したいなと思いこういった呟きを連投しました。あくまで個人の勝手な捉え方でしかありません。それをまとめてみました。
僕が思う上島竜兵さんの面白さを記してみようと思います。上島さん、というかダチョウ倶楽部はリアクション芸というものの代名詞的存在となっていますが、その中核は「裏笑い」という要素が多く占められてると思う。文脈性が実は高い。出川哲朗さんと一緒に括られてるけどそこが明確に違うと思います。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月18日
出川哲朗との違い
出川さんは舞台役者なのだと感じる。リアクション芸というものを素の誇張だとするならばその自意識体幹みたいなものがしっかりしてて身体に滲ませてる。一人で視線を集めきってる。そういうスター性がある。そこと比較すると上島さんはやはりトリオだからなのか役割りとしての受け身技術が高いと思う。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月18日
上島さんのリアクションは「間違ってる」事も含めてオチとして機能する瞬間があるんです。出川さんはそうならない。なったとしても「天然」的な処理を周りがする。上島さんはその間違いを観客含めて「スベってる」扱いをしそこからの涙目発動みたいな流れが生まれてそれを面白さとしてる。団体芸。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月18日
裏笑いのど真ん中にいるのが上島竜兵ではないでしょうか。単純に理解しようとしたら「すべり笑い」という認識にまずはなると思います。
それって構成の面白さだと思う。もっと言えばリアクション芸的なものそれ自体がテレビバラエティの歴史の中で「プロの作り物」から「素人参加型のドキュメンタリー性」みたいな面白さに変容してゆく過程で育まれたものだとも思うのでその大きな流れの終着点の一種類としてダチョウ倶楽部は存在してる。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月18日
構成をさらに俯瞰してる構造の領域。リアクション芸ってドッキリとか体を張る事によって出てくる素の反応を笑うという着眼点が原始的な面白さだから、それを「芸」とするのは実は論理的には無理がある。それをやりながら「型」として演じきるのが出川さんで「外側」から言及してるのがダチョウ倶楽部。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月18日
ダチョウ倶楽部のギャグ「聞いてないよ~」「カットしないでね」「訴えてやる」とか一時期アメトーークとかでやってたリアクション芸を解説するダチョウスコープとかも全部外側からの言及。「くるりんぱ」も「キス芸」も「床蹴って飛び上がる」のもパターンを発動させることそのもの面白さが強い。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月18日
ダチョウ倶楽部自体が「裏笑い」を持ちネタにしているトリオだと思います。それを反復させて表側に形式を浸透させてる。それらを「伝統芸」ってみんなで呼んでること自体が「これのどこが伝統芸なんだよw」って視点。出発点としては「裏笑い」。
出川さんの「ヤバいよヤバいよ」「切れたナイフ」とかは本人の発言をキャラ化させてるものだから明石家さんまの引き笑いとかアンタッチャブルザキヤマの「くる~」とかみたいなもの。「型」の演じきり。上島さんはキャラに微妙になりきらないところに面白さがあってそれを維持する技術があったと思う。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月18日
なので個人的に上島竜兵という芸人は「話術」の人だったと思っています。「芸が無いように見せる」のが上手かったし、またその面白さを伝える手段が「言葉」に比重が多かったと思う。若手に相談されてるのに「おれはこれからどうすればいいんだ」とか面白過ぎる。いわゆる「しゃべくり」ではないけど。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月18日
上島さんは「オチの一言」を球種としてけっこう持ってる人だったと思います。それが上手くハメれなかったりしてからさらにもう一言発動するという「二段構え」になってる事が多かった記憶です。
逆を言えば自己提示の仕方が「内面を想像させる」事によって形成されてたとも言えるから見てる側も外側からの言及しか出来ない事を自覚しにくい性質も持っている面白さだとも思う。お笑いの中でも「話術」って実態の無さレベルが高いと思うので。この呟きも外側からの言及のひとつでしかありません。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月18日
これとかそれがよく表れてると思います。パターンのきっかけは出川さんからだけどキス後の「何つまんねぇ顔してんだよ」ってツッコミは外側からの言及。オチを提示した後に話術で面白くしてる。上島さんのテクニックはむしろこういうところにあったと感じてます。https://t.co/P4dnFaB14P
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月19日
有吉さんは自身のラジオ番組で「出川さんはスタントマンのリアクション、上島さんはコメディアンのリアクション」と言っていました。ここら辺に両者の違いはあって、さらに上島さんはコメディアンの中でも喜劇役者とかより落語家や漫談家や寄席芸人っぽい雰囲気も持ち合わせていたと個人的には感じます。
ここ最近ずっと上島竜兵さんについて考えてしまいます。というか上島さんの「芸」について考えてしまいます。僕は上島さんを「話術」の人だと認識していてそれをどう「リアクション芸」的なものに落とし込んでいたのかと考えてしまいます。個人の勝手な捉え方ですが。鶴瓶さんと似てると思う。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月21日
笑福亭鶴瓶との類似点
なんか鶴瓶さんとか伊集院光さんとかって論理的な思考によって振る舞いや他者とのコミュニケーション環境を設定していってる匙加減みたいなのを凄い感じるんです。そしてそれを「喋り」に乗せてる。落語家さんだからそうだと思うのですが。で、上島さんはそれを「演技」でやってるって感じ。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月21日
厳密に言うと「バラエティ番組で繰り広げられるトークの中でのいじられキャラとしての自分」という演技。これに「話術」的な論理性を覚える。ただいじられて反応してるって感じじゃない。そこに「展開」とか「構成」がある。さらに「言語」をオチとしてる割合が高い。演技の幅と奥行きが管理されてる。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月21日
「いじられ話法」ってのがあると思うんですね。
これとか。同じようないじられリアクション芸人でも出川哲朗や狩野英孝はこうはならない。ハライチ澤部とかがやる聴き心地の良さとかでも無い。即興で「展開」を積み重ねてるグルーヴ感。伊集院光の深夜の馬鹿力でのトークや鶴瓶のスジナシとかで感じれる面白さに近い。https://t.co/ATxpxL5b17
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月21日
出川さんは上記した通り噛んだり間違えたり慌てたり上手く出来なくて照れたりする事を周囲が「天然」扱いしてオチるわけですが、狩野英孝さんの場合はもう少し「天然と計算の半々くらい」で顔とか所作だけキマってるって感じ。これは山崎邦正とか安田大サーカスのクロちゃんとかに近いと思います。よく見るとナイナイ岡村さんとかもいじられた時はそんな感じ。テレビ番組の中でのキャラクターの立ち振舞いに終始するイメージ。タレント性とも呼べる。それらと比べると上島さんや鶴瓶さんはもっと「裏笑い」のリアクションをしてますよね。泣きそうになったりちょっと本気でキレたり、テレビタレントの規定範囲から少しはみ出てる。
ちなみにハライチ澤部さんはそれらを踏まえた上で「間を埋める」ってことに出力してどの役割も全方位的にやってるって感じだと思います。これはバナナマン日村さんとかハリセンボン春菜さんとか関東コント師に多いタイプだと思う。
これも。このセッティングで成立させれるのは上島さんが「喋れる」からだと思います。脱力タイムズにツッコミ芸人さんが呼ばれるのとは訳が違う。言ってしまえば「内輪」とか「座敷」的な領域に誘い込むタイプの笑い。だから有吉さんと相性が良かったんだと思います。https://t.co/5Y8qKTdkPF
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月21日
この役割って企画意図を汲み取ってどれくらいはみ出ないかの匙加減がけっこう難しいと思うんです。芸人さんのタイプによってどれくらい「言及」するのかが変わるから。上島さんと有吉さんは演じてるコントの「範囲」が同じくらいなんです。ストレッチーズ福島さんに注意を促すとことか、インスタントジョンソンすぎさんへの詰め方とか、よく見ると上島さんは「いじられてるフォームでいじってる視点」もある。
これは脱力タイムズのような全部完璧にコントとして進んでゆく構造だと成立しないやり取りだと思います。あれはいじられの演じきりだから出川哲朗とかの方が向いてる設計。
東野さんとのトークもかなり領域的に近いですよね。竜兵会を中心とした上島さんのポンコツ感ってご年齢による影響とかもあったのでしょうが、こうして対峙する相手の世代が近くなってくると「トークが下手」ってパッケージングじゃなくなってくる感触があります。https://t.co/mZQ6siKzSz
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月21日
いじられる側としての東野幸治
東野さんも若手の頃のいじられ芸って上島さんと近い返し方をしていた記憶があります。内輪に持ってく加減が絶妙です。表情とか間合いとかの身体性ももちろん面白さに関係あるけど、それよりも流れの「何手か先」を考えて組み立ててる感があって構図に乗っ取ったまま喋ってる。https://t.co/bEOhA7DbXB
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月21日
ドランクドラゴン鈴木さんとかも近いものを感じる。あとさらに何周かしてるとも思うけどアルコ&ピース平子さんも。「いじられ話法」自体がバラエティ番組に出た時の話術という芸の応用だから、そのテイストのまま「いじり話法」に変換出来てしまえる。東野幸治は「ひどい事をされても淡々としてる」的ないじられ方のままそれを「人が遠慮するような事をズケズケ言う」といういじり方にまで持ってゆけてる。
僕は「話術」ってこういう論理的な思考を含めたものだと感じてるんです。鶴瓶さんも伊集院光さんも上島さんも有吉さんも東野さんも設定された構図から出ないしその中で展開させて構成してゆく。それが責めか受け身かの差はあるのですが。なので例えば紳助さんの喋りは「話術」って感じないんです。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月21日
紳助さんはエピソードトークの羅列によって画面の中に配置されてる出演者の関係性を強調し全体認識を構築してゆくみたいな代物。「メディア術」的な感じ。なので喋りじゃなくても良くて相手の反応も形式が決められてる感がある。ノブコブ吉村さんサバンナ高橋さんヒカルさんとかと近い芸だと思う。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月21日
いじられる側として上記した人だと狩野英孝や山崎邦正、クロちゃん、岡村さんとかが紳助さんと近い領域。
さらに棲み分けると明石家さんまさんとかも「話術」って感じじゃない。あれはやっぱり「演技」だと思う。「喋り手」の演技をずっとしてる。ヒカキンとかと一緒。キャラ芸。そのキャラが言いそうな事をずっと言うって芸。なのでそれは構成とか展開って感じじゃないんです。
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月21日
さんまさんは出川さんと一緒の演じきり。もうほとんど「いじられ芸」はしないけど昔の27時間テレビのビートたけしに車ぶっ壊されるやつとかはリアクション芸の演じきりですよね。
こうして見比べてくと上島さんってキャラ芸とかメディア芸みたいなものの外側に軸足があって、なのに「THE人間味芸人」っていう佇まいをしているのが興味深いです。コントロール範囲が印象よりずっと狭い地点に向けられて披露されてる。ジモンさんへのキレ方とか内輪狙い。https://t.co/UWNIZTW8AX
— 視力 (@shi_ryoku) 2022年5月21日
ジモンさんへのこのツッコミは典型的な「いじられてるフォームでいじってる視点」ですよね。さらに言えばジモンさんの振る舞いもそれを誘発させることを見込んでもいると思う。
肥後とジモンの話術
もう少し他のメンバーも掘り下げると肥後さんの話し方もあの沖縄訛りの雰囲気に誤魔化されてるところがありますが骨組みがしっかりしてると思う。この動画のおぎやはぎと比較するとわかりやすいと思うんですが緩い空気感を醸し出しつつもオチがちゃんとある。
肥後さんも上島さん的な「いじられてるフォームでいじってる」骨組みをしているのですがキャラクター的にそれを強く打ち出してないしトリオ内での役割として上島さんをリアクションさせる側なのでこういう仕上がりになってるんだと思います。引き立て役。肥後さんの特筆すべきは竜兵会の中に入ってもあの感じで居続けられてる所だと思います。上島さんを引き立てつつ後輩にはいじられてる。
あと竜兵会で言えば土田晃之さんの存在がかなり重要で、なんならバラエティ番組に出てる時の中心点は土田さんなんだと感じます。土田さんだけ「裏笑い」になってない。むしろ土田さんは一人だけ明石家さんま的な「キャラ芸」をしてる。
ちょっとややこしいんですが、土田さんは「上島さんはトークが下手」といういじりをしてるけどそのパターン自体が土田さんの演じきりになってて最終的に上島さんが「何を言って締めるか」がオチになるようにパスをしてる。なので実はトークという言葉を話術に置き換えるとむしろパターン芸になってるのは土田さんの方で上島さんの喋りに体重が掛かってるやり方だと思います。宮迫さんも司会で誰かをいじる時これ。竜兵会のオールナイトニッポンでも「指」の返しを裏笑い的に繰り返す上島さんに土田さんがパターンツッコミをしている形状。「トークが下手」いじり自体は世代によって話し運びの形態が大きく変わるから生じる感覚なのだと思います。YouTuberの喋りに慣れてる視聴者は土田さんの得意とするような「すべらない話」の長さをトークが下手だと感じると思います。
なのでバラエティ番組に出た時の竜兵会は土田さんをセーフティネットとしてその上で有吉さんを主力とした掛け合いを上島さんに皆でパスを出して決めさせるフォーメーションが多く見られました。
そしてジモンさんですが、ジモンさんは3人の中で一番「間を埋める」意識が強いと思います。先程上げたハライチ澤部とかバナナマン日村のような音楽的な喋りにあともう少しで到達しそう。バカリズムの早口喋りみたいなものに近い。ただダチョウ倶楽部の中に属してるから形状としては構成や展開、裏笑い的なエッセンスの方が多く含まれててオチ的なものや持ってゆきたい方向性は用意されてるのを感じる。
実際ジモンさんのトリオ内での役割ってけっこう難しいところだとも感じます。他のメンバーがいじられや小ボケを担ってしまってて通常のトリオならジモンさんのポジションに当たる役割が空洞化してると思います。ネプチューンで言えば泰三さんや東京03で言えば豊本さんの仕事を上島さんや肥後さんがやってる。これはダチョウ倶楽部が裏笑いをメインとしてるため形式的な大ボケを作る必要があまり無くなっていったからだと思います。故ナンシー関さんは「ダチョウという集合体がボケとなってる」と言い表しました。そしてその反動で空洞化しているポジションのジモンさんが存在として大ボケ化していったのだと感じます。
ジモンさんの喋りはそれ単体で見ると一番「一人喋り」として完成してるとも言えます。ただバラエティ番組の中での「絡み」となるとそれが重たくなってるしトリオ芸の中でもクドくなってる瞬間があります。しかしそれによってダチョウ倶楽部のハプニング感みたいなものは保たれてるとも感じます。そしてそれに関してはジモンさんは意識しているとも思います。そういう意味では有吉さんの上島さんに対する雑いじりみたいな手法でもあると思う。ダチョウ倶楽部内ではそのきっかけ的なもののみジモンさんが取り扱ってる領域はあったと感じます。
話がいろいろ散らかりましたが、上島竜兵さんにはそういった芸を感じていました。トリオ芸で、リアクション芸で、「話術」というものを駆使していた上島竜兵という芸人さんはとてもテクニカルで面白かったなぁと思っています。